水谷研究室

東海大学 生物工学科

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トピックス

私たちの研究室では、大型放射光施設SPring-8・3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu・米国アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Source (APS)を利用して、生体組織の三次元構造を研究しています。これまでに、ヒト・マウス・ショウジョウバエの脳組織などの三次元構造を、マイクロトモグラフィ(マイクロCT)法やナノトモグラフィ(ナノCT)法で解析し、神経ネットワークの成り立ちを明らかにしてきました。脳組織の構造を解析することで、例えば、神経突起や棘突起(スパイン)、毛細血管がどのような構造上の特徴をもっているか、定量的に解析できます。

脳組織に遺された心を読む

PsychResfig2a 統合失調症では、大脳の体積変化が繰り返し報告されています。一方で、細胞レベルの変化は同定されていません。私たちは、SPring-8および米アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceで、統合失調症例の脳組織の構造をナノCT法で解析しました。これら施設では、放射光と呼ばれる非常に明るいX線を用いることで、ナノメータースケールの3D解析が可能です。得られた脳組織の3D像から、神経ネットワークをトレースし、神経突起の曲がり方(曲率)や細胞体の大きさなどを求めました。すると統合失調症では、(1)神経突起が細く曲がり、(2)細胞体が小さいことがわかりました。細胞体の長さと神経突起の曲率の分布幅のプロットでは(左図)、統合失調症群と対照群が別々のクラスターを形成し、全例を統合失調症かどうか、判別できました。また、神経突起の曲率の分布幅から前帯状回/上側頭回の比を求めると、幻聴スコアと強い相関を示しました。これら結果は、死後の脳組織から生前の精神が読み取れることを示しています。この変化をターゲットとして薬を開発すれば、統合失調症の新たな治療法につながると期待されます(原著論文2026, 2026, 2021 2019)。 本研究は日米でニュースリリースされ、国内外で報道されています: 米アルゴンヌ国立研究所 - APS highlights - 都医学研 - SPring-8 - 海外メディア発表一覧。 第91回日本生化学会大会で若手優秀発表賞を受賞:受賞者一覧 東海大学ニュース2018年10月。 Altmetrics指標で全論文中上位5%にランク:Altmetrics。 YouTube:3D画像 - ネットワーク。 血管と神経細胞の構造が関係することもわかりました:DOI YouTube。関連アニメ:LONA

生物脳の特徴をAIに移植

mouseAI 脳組織から得られた知見を、生成AIなどに実装する研究も進めています。ヒトとマウスの脳組織を解析し、マウスはヒトに比べて細胞体が小さく、神経突起が細いことが明らかになりました。このマウスの特徴を、拡散モデル(DDIM)や敵対的生成ネットワーク(GAN)に組み込み、猫の顔、チーズ、ヒトの顔、鳥の写真などのデータセットを用いて、フェイク画像を生成させました。マウスを模倣したDDIMは、猫の顔とチーズの写真生成では通常のDDIMを上回る性能を示す一方で、人間の顔と鳥の写真生成では通常より低い性能でした。たとえば左図では、通常AIでは生成されない耳や口が、マウス模倣AIでは生成されています。マウス模倣GANも同様の結果を示し、学習に使用したデータセットの性質の違いが考えられました。そこで、学習データセットの統計的性質を検討したところ、データセット間で画像エントロピーが異なり、これにより画像生成に必要なパラメータ数が変化したと思われます。マウス模倣AIの性質は、マウスから連想される印象と一致します。このような生物脳の特徴をAIに実装することで、神経ネットワークと脳機能の関係を明らかにできる可能性があります。 DOI arXiv github repo

ショウジョウバエ脳半球の全ネットワーク

FlyBrain 脳の機能は、どのような動物でも生きていく上で必須のものです。私たちは、ショウジョウバエの脳神経節の三次元構造をナノCT法で明らかにしています。得られた三次元像をトレースし、脳の神経ネットワークをワイヤーモデルとして構築しました(左図)。ショウジョウバエの神経ネットワークは、ヒトとは違って系統的な構造を示し、グループに分類することができます。左の図ではそれを色分けして示しています。その構造を検討すると、脳の部位により、複雑さの異なるネットワークになっていることがわかります。たとえば、複眼に近い部位は単純な繰り返し構造を示し、情報を並列処理する機能を想像させますが、中央部のネットワークはより複雑で情報を統合する機能が見て取れます。この成果は、米マサチューセッツ工科大学の発行するMIT Technology Review誌で記事(日本語版 英語版)となっています。 DOI PubMed arXiv YouTube

分解能を実画像から見積もる

TestPattern 空間分解能は、画像の質を示す重要な指標です。X線の分野では、これまでテストパターンで見積もる方法や、画像の中のエッジを利用する方法などが用いられてきました。しかし、分解能は測定装置の性能だけでなく、機器の揺れや熱膨張、試料の劣化・変形など、様々な要因により影響を受け、テスト試料と実試料では分解能が同じになりません。そこで、サンプル像そのものから分解能を簡単に見積もる方法を開発しました。この方法では、画像をフーリエ変換し、得られる複素係数のノルムを対数プロットすることで、点像分布関数(point spread function, PSF)を求めることができます。特にPSFをガウス関数で近似できる場合には、対数プロットの回帰直線の傾きからPSFの半値幅を決定できます。その応用例として、フレネルゾーンプレート光学系を用いたナノCT測定で、分解能を見積もりました。FIB法で作成したアルミ三次元テストパターンでは、120 nmピッチまで解像が確認できました。ナノCT法で測定したニューロン像の分解能をこの方法で見積もると114 nmと求まり、テストパターンで求めた分解能と一致しました。他の分解能見積り法では、閾値やノイズレベルを定義する必要があり、そこには解析者の恣意性が入ります。本法ではノイズレベル等を定義することなく、分解能の算出が可能で、画像の性質・由来・次元によらず、応用できます。 DOI PubMed arXiv

研究成果

様々な脳組織の三次元解析(論文)とそのAIへの実装(論文)を中心に研究をすすめています。
  1. Ryuta Mizutani et al. (2026). Structural alteration of neurons in schizophrenia and its relation with auditory hallucination. Eur. Psychiatry 69, e25. DOI
  2. Ryuta Mizutani et al. (2026). Pyramidal soma size in the anterior cingulate cortex is small in schizophrenia and correlates with hallucination score. Psychiatry Res. 355, 116822. DOI PsyPost news
  3. Rino Saiga et al. (2025). Structural differences between human and mouse neurons and their implementation in generative AIs. Sci. Rep. 15, 25091. DOI arXiv
  4. 糸川 昌成 ほか (2019). 放射光ナノトモグラフィ法を用いた統合失調症における神経細胞の構造変化の解析. 精神神経学雑誌 121(12), 926-940. 日本精神神経学会「精神神経学雑誌」
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資料・コード

3D動画と三次元座標データ (RRID:SCR_016529)

ヒト・マウス・ショウジョウバエの脳の神経ネットワーク等の3D動画と三次元座標データ。動画はYouTubeで公開しています。

MCTracejump (RRID:SCR_016532)

神経ネットワークのトレースと構造解析のためのソフトウェア。神経ネットワークの三次元像を解析し、デカルト座標系で構造を記述することで、生体組織の構造を定量的に解析することが可能になります。

RecViewjump (RRID:SCR_016531)

SPring-8およびAdvanced Photon Source (APS)で測定したトモグラフィデータの再構成計算と画像解析のためのソフトウェア。実時間(on the fly)でのデータ処理を実現するために、並列計算プログラミングモデルCUDA Cを用い、また、x86/x64アセンブリコードの中ではAVX-512までのSIMD命令を使用しています。

生物脳を模倣したAIjump

脳組織の三次元解析から明らかになった知見を、AIで用いられるニューラルネットワークに移植しました。マウス等を模倣した畳み込み層を用いることで、従来のネットワークを上回る性能が得られます。また、学習の計算方法やネットワークの構造を変えることなく、重み係数を半分以下に削減できます。 github repojump 原著論文jump

組織試料の準備・取り扱いプロトコル (Protocol Exchange)jump

生体組織を放射光を用いて解析するための方法とコツ
キャピラリマウント手技 (YouTube).jump

三次元テストパターン

マイクロCT法・ナノCT法の分解能見積もりのための三次元テストパターン

教授略歴

名前:水谷隆太 1967年生まれ

Mizutani 米アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceの32-IDビームライン実験ハッチCで測定検体をマウントしている水谷(米アルゴンヌ国立研究所ニュース2021.2 - 東海大学ニュース2022.10)。実際に組織検体を取り扱う際は、同研究所バイオセイフティ委員会で事前に実施手順等の書類審査・実地検査を受け、認められた方法に従って実験します。

専門:構造生物学

学歴:

東京大学薬学部1990年卒
同大学院薬学系研究科博士課程1995年卒 博士(薬学)

職歴:

国際基督教大学理学科 非常勤助手(1992-1993)
日本学術振興会 特別研究員(1993-1995)
東京大学薬学部助手(1995-2006)
東海大学工学部准教授(2006-2012)
同教授(2012-)
理化学研究所 播磨研究所 客員研究員(2023-)

所属学協会:

日本生化学会
Microscopy Society of America
Royal Society of Medicine (UK)
Sigma Xi
ほか

連絡先

水谷隆太
東海大学 工学部生物工学科/大学院工学研究科/大学院総合理工学研究科
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1
電話 0463-58-1211(代表)
E-mail mizutanilaboratory(at)gmail.com
https://mizutanilab.github.io/
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