統合失調症では、精神症状から神経回路の変化が示唆されます。しかし、その原因は明らかになっていません。私たちは、SPring-8および米アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceにおいて、統合失調症例の脳組織の構造をナノトモグラフィ(ナノCT)法で解析しました。これら施設では、放射光と呼ばれる高輝度のX線を用いることで、ナノメータースケールでの三次元解析が可能となっています。得られた脳組織の三次元像から、神経細胞のネットワーク構造をトレースし、その構造モデルを構築しました。構造モデルはデカルト座標系で記述されており、神経突起の曲率や捩率(torsion)などの幾何学的パラメータが計算できます。
すると、健康なかたでは神経突起の曲がり方(曲率)が加齢に比例して変化することが分かりました。統合失調症では、この比例関係から逸脱し、幻聴スコアが神経突起の曲率と強く相関していました。このような神経細胞の変化をターゲットとした薬を開発できれば、統合失調症の新たな治療法につながると期待されます(原著論文)。
この研究は日米でニュースリリースされ、国内外で報道されています:
米アルゴンヌ国立研究所 -
APS highlights -
都医学研 -
SPring-8 -
海外メディア発表一覧。
第91回日本生化学会大会での発表では、若手優秀発表賞が授与されています:東海大学ニュース2018年10月。
関連論文:2019
2021
Altmetrics指標により全論文中上位5%にランクされています:Altmetrics。
YouTube:3D画像 - ネットワーク。
血管と神経細胞に構造の関係性があることもわかりました。DOI YouTube
脳の機能は、どのような動物でも生きていく上で必須のものです。私たちは、ショウジョウバエの脳神経節の三次元構造をナノトモグラフィ法で明らかにしています。得られた三次元像をトレースし、脳の神経ネットワークをワイヤーモデルとして構築しました(左図)。ショウジョウバエの神経ネットワークは、ヒトとは違って系統的な構造を示し、グループに分類することができます。左の図ではそれを色分けして示しています。その構造を検討すると、脳の部位により、複雑さの異なるネットワークになっていることがわかります。たとえば、複眼に近い部位は繰り返し構造を示し、情報を並列処理する機能を想像させますが、中央部のネットワークはより複雑で情報を統合する機能が見て取れます。この解析は、600-800 nm分解能で行いましたが、より高い分解能で三次元構造を解析する際には、トレース法の効率化が重要になると考えています。この成果は、米マサチューセッツ工科大学の発行するMIT Technology Review誌で記事(日本語版 英語版)となっています。
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空間分解能は、画像の質を示す重要な指標です。X線の分野では、これまでテストパターンで見積もる方法や、画像の中のエッジを利用する方法などが用いられてきました。しかし、分解能は測定装置の性能だけでなく、機器の揺れや熱膨張、試料の劣化・変形など、様々な要因により影響を受け、テスト試料と実試料では分解能が同じにはなりません。そこで、実際の生体組織の三次元像から、サンプル像そのものの分解能を簡単に見積もる方法を開発しました。この方法では、画像をフーリエ変換し、得られる複素係数のノルムを対数プロットすることで、点像分布関数(point spread function, PSF)を求めることができます。特にPSFがガウス関数で近似できる場合には、対数プロットの回帰直線の傾きからPSFの半値幅を決定できます。その応用例として、フレネルゾーンプレート光学系を用いたナノトモグラフィ測定で、ニューロン像の分解能を見積もりました。FIB法で作成したアルミ三次元テストパターンでは、120 nmピッチのパターンまで解像していることがわかりました。ニューロン像の分解能をフーリエ対数プロットから見積もると114 nmと求まり、テストパターンで求めた分解能と一致しました。他の分解能見積り法では、閾値やノイズレベルを定義する必要があり、そこには解析者の恣意性が入ります。本法ではノイズレベル等を定義することなく、分解能の算出が可能であり、画像の性質・由来・次元によらず、応用することができます。
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3D動画と三次元座標データ (RRID:SCR_016529)
MCTrace (RRID:SCR_016532)
RecView (RRID:SCR_016531)
名前:水谷隆太 1967年生まれ
米アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceの32-IDビームライン実験ハッチCで測定検体をマウントしている水谷(米アルゴンヌ国立研究所ニュース2021.2 - 東海大学ニュース2022.10)。実際に組織検体を取り扱う際は、同研究所バイオセイフティ委員会で事前に実施手順等の書類審査・実地検査を受け、認められた方法に従って実験します。専門:構造生物学
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